人の「つながり」と「気持ち」を大切にしたい それを感じられる瞬間が一番うれしい 東京都文京区千駄木で左官業を営む 有限会社原田左官工業所 代表取締役社長 原田宗亮の生き方・働き方

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有限会社原田左官工業所 代表取締役社長 原田宗亮の生き方・働き方

「職人」を育てる

技術と感性、そして自分で責任を持つ大変さを知ること。それが独り立ちを可能にする

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当社は、左官―「鏝(コテ)で塗る」仕事をする会社です。左官というと壁を塗るだけのイメージが強いのですが、うちの場合、防水をはじめ、ブロック構築やタイル貼りなど、左官にまつわる仕事を総合的にやっています。

うちの特徴は、まず、女性の左官職人を育てているということが一つ。
もう一つは、左官仕事の中でも仕上げの分野、つまり表面的に見える部分の工事が得意です。例えば、我が国が培ってきた伝統的な外壁の仕上げ、土壁や聚楽(じゅらく)壁、漆喰(しっくい)などです。また、現代はいろいろな壁があり、見本を展示するメーカーや工務店などでは装飾的な左官仕事で作った壁が多彩に並べられていますが、そうした壁も得意分野としています。

得意分野を生かすうえで大切なことは、まず当然、技術が基本的ベースとして必要です。それプラス感性です。どのように作り上げていったら、施主さんが求めている壁の見え方にすることができるだろうかという感性が必要になります。

感性は現場で「教える」ことはできなくて、自らそれを磨くためには、やっぱりたくさんいろいろなものを見ること。このことは職人さんに対して常にこちらからアピールしています。現物だけではなく、「こういう左官の雑誌があるよ」とか、「この建築雑誌にいい記事が載っているよ」とか、意識的に言っています。

昔からうちの場合、見習い工として採用して、自社で育ててきました。現在、見習い期間を4年間として、その中で一段ずつステップアップしていけるような育成の仕組みを作りました。

そのカリキュラムの内容の一つに、塗り壁トレーニングというものがあります。べニア1枚分の大きさの土台に土を塗り、次にはそれをはがす、この作業を1時間に20回繰り返してやる訓練です。時間制限があり、その中で目標回数を達成することができるかどうか、ということです。もちろん20回できた人と、19回しかできなかった人など、さまざま差がつきます。でも、達成できなかった人は「20回できるように努力しよう」という明確な目標を立てることができますよね。これが非常に大切な訓練なのです。こうして、一つずつ、型を覚えていきます。

また、ブロックを積んだり、防水を施したりという、うちの現場の中で進める作業を会社の倉庫で習得してもらいます。例えば防水であれば、水を張っても漏れないかどうか試験をする、そういう技術をしっかり身に付けてから、はじめて現場で独り立ちさせます。

かつては何でも現場で先輩達に教えてもらいながら学ぶ方法でした。ですが、現場ではじっくり教わりながら実践していくという機会はなかなかないもの。また、目の前にあるものは売り物ですから、失敗したら大変なことになります。未熟な点は先輩達がフォローはするけれど、また「訓練期間中だからね~」と言葉では言ってくれるけれども、ね。ですから、現場にいく前に経験を積んで、自分で責任をもつ大変さをわかってもらうこと、これが大事なんです。

これらの取り組みは左官業界の中でも珍しいと思います。何社かはありますけれど全体からすると稀少でしょう。でも私は育成ということが、現在、非常に重要課題だと思っているのです。左官の職人は全盛期には30万人いました。それが、今では全国で7万人をきっています。職人が本当に少なくなってきていますから、早く皆で育成することをやっていかないと、業界がなくなるという危機感があります。

すべてに「精通」する

技術の幅を広げることで、責任をもって最初から最終仕上げまで見届ける

対話する?

創業は1949年(昭和24年)で、私の祖父が始めました。

初代が祖父で、二代目が父、そして三代目が私ということになります。

自分たちの技術が活かせる分野であれば、技術の幅はどんどん広げたいと思うのです。初代は職人気質で、自分の技術がすべてでした。二代目の父の場合は、根っからの職人ではないので、左官の技を応用してちょっと違うこともしようとしました。本来の左官技術から外れることでもやれることはやるという姿勢で、そのことに対して抵抗はないわけですね。

職人だと、これは左官仕事だ、これは左官仕事ではないと専門分野にこだわりがちですけれども、経営者の目線で考え、もう少し幅広い部分に携わることができれば、左官業も仕事が増えるかもしれない…ということです。そうした方針をうちの職人さんたちが受け入れ、取り組んでくれたのが、今の結果になっているのだと思います。

うちの強みとしてまず一つは、壁塗りという左官仕事だけではなくて、防水もタイルもブロックも、自社の職人で行うことができるということだと思います。その部分を外注に流すという会社が多いのですが、それだとどんな職人がくるかわからない。うちは基本的にはうちの職人で回しますから、先方にしてみれば、見知っている職人が来てくれるということになります。

仕事の流れでいうと、ブロックから始まり、防水をやって、左官をやって、タイルを貼るといった工程なのですが、うちの職人の中にはすべてに精通している人もいますから、自分で責任をもって最終仕上げまでできる。そういうのは、現場監督さんにとっては非常に安心なわけですね。

建築の現場では、それぞれの分野がそれぞれ自分の都合を言います、自分たちがやりいいように。それで監督さんが苦労する。あるいは、一部の業者にしわ寄せがドンと掛かる。そして、結局、仕上がったものが綺麗なものじゃないということがまま起こります。でも、一人の職人が関連ある工程を一貫して受け持っていれば、自分が最後までやるのですから、いろいろカバーもでき、しかも効率よく作業を進められるように自分でコントロールできるわけです。この先の工程で時間がかかりそうだから、今日仕事上りが遅くなっても今ここを頑張っておこう、とかですね。その結果、綺麗なものが仕上っていく、こういう責任の取り方が支持を受けているのではないでしょうか。

また、職人の立場から言うと、左官の仕事しかやらないとなると、一場面だけ呼ばれておわりになりますが、ブロックを積んだり防水をしたりという、その前段階の部分から手掛けると、現場に最初から呼ばれます。そして、左官仕事という最後の仕上げまで見届ける。つまり、店舗が完成するまでの一連の流れが見えるわけです。それによって自分がやった部分は全体の中でどのような位置を占めるかが分かりますから、その後の仕事に想像を働かせることもできるようになるし、自分の仕事の面白みがよくわかってくるのです。

人の「つながり」と「気持ち」を大切にしたい

それを感じられる瞬間が一番うれしい

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人生を生きていく上で大切にしていることは、毎日、できるだけ楽しく過ごせるようにしようということです。

「わぁ楽しい!」と自分自身が盛り上がっているところはあまり見せませんが、みんなが楽しそうなのを見ることが、嬉しい。何か一体感があるぞとか、まとまっているぞということがわかる瞬間が、私にとっては一番楽しい時です。高校時代の吹奏楽部での体験がまさにそうでした。

吹奏楽部の3年間は、結構人間関係が濃密でした。人の好き嫌いもありましたし、いろいろなことが起こりました。高校生といえども自分なりの生活もあるし、バイトをしているなど、それぞれの都合もある。その中で、最終的な目標に向かって頑張ろうという姿勢を持ち合い、外れそうな人もうまく戻して、みんなの気持ちを一つにしていくことは、部長として苦労はしましたが、すごく充実していて面白かった。

今仕事を一緒にしている職人さんとの関わりにしても、この人はこういうタイプのようだから、こうやった方が伸びるんじゃないか思えばアドバイスしますし、相手の希望する方向がわかれば、それに対して協力できることは協力しています。職人さんにもいろんなタイプがいて、現場に顔を出すことが嬉しいという人もいれば、「あれこれ外野から指図しないで任せてくれよっ」というタイプもいる。その人がより実力を出せるようないい方向に合わせる、これが私の基本的なスタンスです。

職人さんたちには「気質」というものがあります。それを受け止めたうえで、私がすべて現場をまわれなくても、「現場の仕事がきついことはよくわかっているよ、みんなの状況はいつも見ているから」という気持ちの繋がり、こうしたことを職人さん達に感じられるようにやりたいなって、思っています。

結局、会社と職人さんは心で繋がっているものなんですよ。もちろん、金銭的なことはありますが、やはり根底にあるのは、信頼関係以外ないですね。職人さんは自分が腕を持っているわけですから、ある意味、会社は仕事を取ってくるだけという認識も持っています。彼らが「明日辞めます」と言ったら引きとめられないわけで、なんの縛りもない。そこには信頼関係とか、長年やってきた愛着とか、そうした人と人との繋がりがあるだけであって、何か強制的に縛っているものはないわけです。だから人との「つながり」と「気持ち」を大切にしたい。

この以心伝心のようなことは、会社の中で味わっていますよ。例えば、予定を決める時 ― これを差配するのは私ではないのですが、明日の現場の予定を責任者が張り出す指示書の掲示を見てバシっとはまっていると、それだけで「乾杯!」したくなるほど、嬉しいと言うか、楽しい。

そこには文字しか書かれていませんが、彼はこういう理由であの現場に行ってもらうのだなとか、彼はあの部分をサポートさせるためにあそこの担当にしているのだなとか、いろいろな背景が指示書から読み取れるのです。仕事とは納期とのせめぎ合いですから、なにかと職人さんたちの要望通りにはいかないもので、どこかになにかの不満がある場合が結構多いものです。それがバシっと決まっているというのはすごく嬉しいわけです。将来を見越し、その人を育てるために先輩を一緒に組ませている場合もあり、そういうストーリーが垣間見れるのも、「明日の予定」の嬉しい部分です。

「成長」を祝う

喜んでもらえる仕掛けを考え、職人として技の習得に注力する環境を創る

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会社のイベントで、今、「年明け披露会」というものをやっております。うちで見習い工からスタートして4年という期間を経て、職人として一人前になったことをみんなで祝う場です。育った職人さん、外からきた職人さん、いろいろな履歴の職人さん達がみんな参加し、一堂に会してくれるというのはね、本当に嬉しいことです。

左官の仕事と言うのは、遥か彼方の昔からある職業です。初代、私の祖父が従事していた時代から道具は多少変化しましたけれど、基本的なこと、塗って仕上げるということは全然変わりません。将来も絶対変わらないでしょう。

今風に合わせて、機械化できる部分は機械に任せていますが、人が覚えていかなければいけない技術がまだまだたくさんあるのです。今後も職人さんには技の習得に注力してもらいたいですね。

私は、そんな頑張っている職人さんに喜んでもらえるちょっとした仕掛けみたいなのを考えるのが好きです。たとえばフォトブック…ささやかなことですが、なんか嬉しいじゃないですか。

考えるということ自体がすごく好きで、楽しいのかもしれません。うまくいく方法はないかなぁ、と、試行錯誤すると言いますかね。

「左官の技」を活かせる仕事をもっと広げていきたい

新しいニーズはむしろ今増えつつある

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今やっている仕事の80%は、商業施設…大小の店舗や大型施設の中のテナント造りを請け負う工務店さんと組む仕事です。2割が個人住宅の中での左官にまつわる仕事です

それと、左官職人の腕の見せどころと言いましょうか、修正や工法の提案をするという仕事もあります。

左官とは鏝(こて)を駆使して職人が仕上げるものですから、職人の技や感性によって仕上がりに微妙な差が表れてしまうものなのです。お客さんがイメージしているものと誤差が出ることもあり、そうした時、工務店さんから相談され、それに応えるということですね。お客さんの仕上がりイメージをどのように探るか…なかなか言葉で的確に示せない施主さんもいますから、こちらから「こういうものはいかがですか」と、具体的な例をお見せして提案することもあります。

また、作り上げる過程を実際現場でお見せする場合もあります。お客さんの中にはさまざまな雑誌を見たりして、外国の写真のこんな壁にしたいなどの注文を出される方がおり、それがどういう作業工程を踏むのかわからない場合もあるわけです。そんなケースでは、うちが考えた工程のポイントごとにお客さんに見てもらい、お客さんのイメージに仕上げてゆきます。こういう、いわば特殊な仕事も増やしていきたいと思っています。

実は、左官仕事って、非常に多彩なんです。いろいろなものを形にできちゃう。

だけど、一般の人はあまりそういうことはご存知ないですよね。「左官屋さんって、土を塗る仕事でしょ」とか、「平らな壁を鏝で塗っている人たちでしょ」という認識しかないと思います。でも、左官仕事の範疇は大変広くて、そういう部分をもっともっと仕事として広げていきたいと思っています。

タイルにはタイルの、クロスにはクロスの商品カタログがありますから、お客さんが柄を選べば、どんな職人さんがやっても100%と言っていいほどイメージ通りに出来上がります。ところが、左官の分野はさまざまな表現や素材があるけれど、従来、カタログと言うものがないのです。扇のような模様に塗ることもできるし、ランダムに塗ることもできる、また「くし」で線を引いたような筋も表せますが、そういう「左官の匠」をまとめたものがない。お客さんには知らない世界が広がっている…ですから、その世界をわかってもらうために、カタログを作り、今、配っています。これを、左官を知る入口にしてもらいたいですね。

お陰さまで、カタログはすごい反響をいただいています。今まで知り得なかったお客さんとのやり取りも始まりましたし、東北での仕事が舞い込んでもきました。海外に行っての仕事のお話も頂いております。

自分たちがどんなに左官の世界を知っていても発信しなければわかりませんが、逆に、左官の技術の素晴らしさを一方的に押し付けても、お客さんが求めることと違っていれば、かえってよくない状況を生んでいきます。「ここ、これがすごく難しい技術なんですよ」と言っても、先方に「そんなものはほしくない」と言われちゃう部分もあるわけです。このあたりに細心の心配りが必要となって来ますね。

本来、我々の仕事は型通りに仕上げるということが主体で、アーティストではありません。でも、それだけだと面白味があまりにもないので、自分らの技術を存分にふるえる部分ということを創り出していきたいです。その一つが、提案型の仕事であると思うんです。自分たちの考えたものをどんどん形にできるので、この部分は増やしていきたいし、実際、今増えていってます。

私はうちの社員には幅のある職人さんになってもらいたいのです。もちろん、根底には左官の基本技術は絶対大事ですよ。が、時代によってうちの会社に求められているものも変わってきました。初代は日本銀行などの大型ビルを作ることを求められたし、私の父の代だと、住宅の左官をやることが求められました。今は分野が広がっています。

左官の技術がないと何事にも対応はできないけれども、ちゃんとした技術があれば、お客さんが求めているものに添うことや、また、どんなに時代の流れが変化しようとも、それらに対応ができる。「俺はこれしかできない」と言ってしまうと、せっかく持っている技術さえも生かせなくなります。

いわゆる従来型の左官の仕事自体は減ってきました。しかし、左官工事と言いますか、新しいニーズはむしろ今増えつつあるんですよ。であれば、左官の技を活かせる仕事をもっと広げたいですよね。

「個性」を見ながら、タイプに合わせて育てていければいい

自分が仕事を動かしているという充実感が楽しさを生む

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人材育成に会社が力を入れていることを職人さんみんなが理解をしてくれたのが、大きな成果だと感じています。これによって、現場のみんなが若い世代を育てようと協力してくれています。今は、会社での訓練と現場での実際の仕事がリンクしているように思えます。

うちの場合、さまざまなキャリアの人が在籍しています。高卒の人もいれば、大学や大学院卒の人もいます。中途でこの業界に入ってくる人も多く、40歳くらいで職人になりたいって来る人もいます。男性も女性もいる。

長くうちに勤めている方々が、今、そういう人を抵抗なく受け入れて育てようと努力してくれています。この変化が率直に、すごく嬉しいです。会社で育成した後現場に出して、一カ月くらい経った時、「会社で訓練をああいう風にしてくれると、すぐに塗りを任せられるから、いいよ、楽だよ、役に立つよ」と古い現場の職人さんからいい反応が返ってくるのは、嬉しいかぎりです!

先輩の職人さんにとっても、見習いや若い子が早くできるようになった方がいつまでも自分が先頭に立ってやって行けるわけでないから、将来を託せて、楽しいですよね。完全に任せることができるほどになると、そこは古い職人さんには微妙な心理も働くけれども、でも、成長を目の当たりにするということは、嬉しいことですよ。

なんでそこまで人を育てるのを大事にしているかというと、左官は今でも人が手で仕上げる仕事で、建築業の中でもこんなに手技が重要な分野は少ないのです。最近では、すでに製品になっている部品を取り付けたり組み立てたりするのがほとんどで、最終的に職人が仕上がりまで責任を持つという職種は他にはないとさえ思っています。その分、人が技術に関わるウエイトが大変高いので、腕の良し悪しが仕事のすべてなんですよ。だからいい職人を育てるということは、会社の力を左右する大きなファクターになってくる。そうした、いい職人を育てられる仕組みを持っているというのは、会社の財産、そのものなのです。

まだまだ、だとは思っています。

腕を磨いていき現場をまとめるという中で、その先では、腕を極めていくスペシャリストになるのか、管理したり金銭的なことに関わるマネージメントの部分が向いているのか、このふたつの方向に分かれていきますね。これは、やっぱり、本人がやりたい方向に伸ばしていってあげる必要があると思います。コツコツやって自分の技術を磨いていって素晴らしいものを仕上げることが好きなタイプもいますし、大きな現場をまとめて予算よりも少なく手間をかけないであげたぞということに喜びを感じる人もいます。そうした個性を見ながら、タイプに合わせて育てていければいいですね。

ややもすると、そのあたりがごっちゃになって、なんだかわからないままに働き続け、一生懸命やっているにもかかわらず、良かったのか悪かったのか、結果が見えないということがあるんですよ。自分なりに結果が分かる方が楽しいでしょう? 

数字に強くなること、これはタイプがあるので一概には言えませんが、でも、現場に出る以上は、数字には関心を持ってほしいですね。というのは、この仕事はこれだけ手間がかかっているけどあまり利益が出ないのではないかとか、仕事はこうやれば利益率が上がっていくのではないかなどに思いを巡らせてほしいからです。
その方が実際自分たちがやったことの結果がわかって、仕事の面白みも増すと思います。

技術は一生磨いていくべきものですが、それと同時に、利益を出すにはどうやったらいいか、費用の流れはどうなっているか、仕事の取り方はどうしていくのかなどは知っておく方が、自分が仕事を動かしているという充実感を持てて楽しいわけですよね。そういうノウハウ、私たちが持っているものや、全国で実践しているいろいろな成功事例を集めて、外へ広く伝えていく場(教育機関のようなもの)ができたらいいなと思っています。将来の私の夢の一つです。

左官職人になりたいと思っても、その入り方がよくわからないというのが、今の現実でしょう。また、募集を掛けている会社はあるけれど、その会社が左官仕事の何をやっているかによって、全然違います。それだけ左官の世界は広くて、何度も言いますが、ビル専門の会社もあれば、住宅専門の会社もあり、うちみたいに多彩に展開している会社もある。選択を間違えると、望んでいない仕事しかできないということにもなるわけです。ですから、入口として左官仕事の内容を教え、いろいろな左官の中で、専門職的な分野に進みたいのか、もっと幅が広い仕事に取り組みたいのか、まずはこの世界を知ってもらう場があるとすごくいいなと思いますね。

人は自分の持っているものを無償でも教えたいってところがありますが、昔気質の職人さんも、本来、教えたがりですよ。だけどなかなかそういう機会がないのが現実だし、かつては職人の世界は手取り足取り教えるという流れではありませんでした。だから技を披露する部分がなかったんですね。これから職人さんが高齢化してきて、いつまでも自分が先頭でバリバリやっていくことが不可能になるので、ポイントや肝になる部分を教えたいと思う職人さんはたくさん出てくると思います。そういう先輩から若い子が技術を盗めるような仕組みや場があれば、それこそ、お互いのためになります。

経営理念に込めた「想い」

すべてはみんなの幸福(しあわせ)のため

対話する?

経営理念は『夢とロマン』です。

夢とかロマンとか、そういったものを持って仕事に取り組んでもらいたい。建築業は身体を使うので、疲れます。日々体力を消耗しますから疲労も並大抵ではありません。だから、ベースに夢やロマンがないと、ただ消耗して、使われて、終わっちゃうことになる。なんで左官職人になりたいと思ったか、それぞれ夢を持ってこの世界に入ってきたはず。それを忘れないで仕事を継続していってもらいたい。自分の目標を忘れないで仕事をしていってもらいたい。それを「夢とロマン」に込めています。

基本方針として、「職人を守る」ということが私の中に大前提としてあります。

・職人を守る
・伝統技術の継承発展
・幸福(しあわせ)の創造    という流れです。

「職人を守る」、なぜ私がこれを強く意識するかと言うと、うちの初代は自分が職人として率先して現場にでて仕事をし、それを認めてもらって仕事を増やしていった、根っからの職人。50歳くらいで肺を悪くして、そのあと長生きしましたけど、現場の仕事ができなくなりました。現場を引退せざるを得なくなった。そうすると、一日中家にいることになり、しかし、やることがない。職人って、職の人ですから、職を取ってしまうと何もやることがないんですね。趣味もなかったし。そういうわけで、祖父は晩年ちょっとさみしい思いをしました。その姿を目の当たりにしていたということがあります。現場を引退しても、後輩を指導するとか、息の長い職人生活を送ってもらうということで、職人を守りたいということです。

また、この住宅の左官は必要なくなったけど、こっちの左官仕事はあるよ、と、仕事を確保してもらうために、いろいろと覚えてもらう、これもある意味、「職人を守る」ということで、それにより、みんなの生活を安定させたい。あとは厚生年金とか雇用保険とかですね。うちは昔からこれをやっていて、現場を引退した後も金銭的に保障される、怪我をしても補填される、これも「職人を守る」ということですよね。

次の「伝統技術の継承発展」ですが、それはどの職人の世界も同じですが、やっぱり職人のあるべき姿として、腕は磨いていってもらいたい。自分の覚えたものは墓には持っていけないので、それを伝えて次世代に継承していってもらうために働きかけてもらいたい。その中でその人なりの自分らしさでもって、プラスアルファの発展をしてくれれば、ベストですよね。

そして、「幸福(しあわせ)の創造」とは、会社が職人を守り、伝統技術を継承発展させることで個人それぞれ、働いている人がみんな幸せを作り出せるようにすること。自分の腕を磨き、夢をもって夢に向かって日々努力していく人々とともに、幸せを作り出していきたいと思っています。

「職人」として生きる覚悟はあるか

それなりの態度と覚悟のある人に、先輩職人さんたちは自分の大切な技術のすべてを教えてくれる

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まず我々の仕事は現場が職場、ということです。したがって現場の都合に合わせて自分を動かさなきゃいけないという場面は多くなりがちです。だからと言って休めないわけではありませんが、休みは不定期になります。現場監督から、何日までがこの作業の工期だからその間に仕上げてくれと言われたら、土・日も出なければならいこともある。夜中にやってくださいと言われたら夜中にやらざるを得ない。また、外の仕事を予定していても雨が降れば、やりたくても休みになることもあります。現場の都合に合わすことが必須条件ということは、建築の職人の宿命でありますね。

うちの仕事の中で大変な部分に、決められたものを決められた納期でやるということがあります。店舗工事は概して納期が厳しいのです。時間がないところで、いろいろな人とかちあって仕事を進めることになる場合も多いです。

提案型の左官の仕事では、今までにないものを作っていくっていうことでしょうか。今までにないものを創出するのですから、なにが大変なのか、どういう難しさがあるのか、それも試行錯誤なわけです。その結果の最終形が失敗、ということもありますから、初めての仕事は神経を使いますよ。

また、職人の世界は拘束時間が非常に長いのですね。朝はかなり早くから、夜は遅くまで、となりがちです。現場では基本の時間で上がれますが、朝は会社に集合し現場に向かい、現場から会社に帰ってきて、片づけをしてから帰宅します。

見習いで仕事を覚えていく過程では、やっぱり下働きというのがポイントになりますね。教えてもらうには、まず教えてもらえるだけの当人の態度が大事ですし、先輩の職人さんに自分を指導してくれる時間的な余裕を自らが作らなければ教えてもらえません。だから、先回りして掃除をしたり、先輩が動きやすいように段取りをしなくてはいけない。そういう大変さが最初はあります。

教えてもらえる態度ということですが、先輩だってものすごく苦労して技術を覚えきたわけで、それを、いわば無償で惜しげもなく教えてくれるわけですよ。その重要さと価値に十分敬意を払うべきですよね、秘密を教えてもらうようなものなのですから。もし誰にも教えたくない大切なものを教えろと言われたら、自分はどういう気持ちになるか、そのあたりを考えるといいですね。ですから、ものを教えてもらう場合は、それなりの態度と覚悟で臨まないと本当のことは教えてくれないですね。

「こいつ一年たったらやめちゃうな」と感じさせるものがあると、誰も一生懸命に教えてくれない。逆に「こいつはものになるぞ」と思ったら、自分の大切な技術をすべて教えてくれると思いますよ。人は誰でも教えたいのです。でもそれを無駄にする人には教えないのです。

技術を自分のものにする、これは自分の努力で獲得していく方法しかあり得ません。

過去には、人を育てることで失敗もありましたけれど、今は、「この見習いを鍛えてくれ」と先輩職人さんに言うと、みんな、本気で教えてくれます。こちらの都合で、その見習いを別の現場に行かせたりすると、ものすごく怒る。でもそれは真剣だから、なのですね。

「人」を育てられる会社になりたい

時代の変化に伴って変化していくことが、職人を守ることに繋がる

対話する?

これからも目指し続けることは、「人」を育てられる会社になりたいということに尽きます。

会社をずっと継続していくには、時代に合わせた職人をしっかり育てられるかどうかが非常に重要になります。うちの会社が何を売っているのかというと、技術を売って仕事をしているわけですが、その技術を磨くにはまず人を育てるということ。

今の時代に合っていれば現状の技術でも仕事は途切れないのですが、「育てる」というテーマがないと、時代が変わって違う技術を求められたとき、今いる人たちを置き去りにして、新しい人達に頼ることになってしまうでしょう。それは絶対にしたくない、うちは職人さんを守ってやっていく会社ですから。

新しい技術が求められるのであれば、それを会社も覚えなければいけない、それを今の職人さんたちに伝授して、みんなができるようにしてやっていきたい。だから、見習いだけを育てるという意味だけではなくて、日々、職人さんも時代に合うように育てていけるような会社になりたい。

原田左官は左官のことをやる会社としては変わってないけども、何の左官をやるかは変わってきていますよ。時代の変化に伴ってうちも変化をしてきたから今こういう風になっていると思うのです。この伝統は守っていきたいです。

いろんな考えや想いを混ぜて美味しい「スープ」を創る

どうやったら幸せになれるか?みんなで考えてやっていきたい

対話する?

仕事は人生の一部とよく言われます。でも実際は、会社にいる時間って、ものすごく長いですよね。20歳くらいから60歳まで会社に勤めるとしたら、人生の大部分は会社にいる時間なんで、実はものすごいウエイトを占めています。だから、会社にいる時間を幸せに思えるようにしてほしいなと思います。

仕事は辛いことも嫌なこともあります。でもその中で、こうやったら幸せになれるんじゃないかなと、みんなで考えながらやっていきたいなと思います。

そのためには、まずは人の意見や人の気持ちをよく聴くことでしょうね。聴いたからといってそれをすぐに実現できるかどうかはわからないですが、いろんな考え方や望む方向を知り、そのうえで、それを混ぜて美味しいスープにしていく、みんなのいいところを混ぜて、一つのスープにできたら、いいものになるんじゃないかなと思いますね。

だから、一人ひとりが抱いている想いや考えをどんどん出してほしいと思います。

出してもらわないと伝わらないことって多いですし、それが合っているとか合っていないとかという問題ではなく、考えを伝えてほしい、想いを聴かせてほしい。お互い別々のことを想ったままであればどんどん気持ちが離れてしまいますから。私が言うことに対して「それ違うんじゃないの?」とか、「それはいいよね」とか、なんでも考えを聴かせてほしいと思いますね。

それがよいスープを創れるヒントになります。

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